【注意】少なすぎる役員報酬がよくない理由【メリット・デメリットを解説】

2023.06.22

少しでも多くのお金を会社に残したい
利益予測ができないから役員報酬をゼロにしたい
役員報酬を少なくした場合の注意点は?
 
役員報酬を決める際の悩みは尽きないもの。
マイクロ法人などのオーナー社長からはよく質問をいただきます。
 
実は…役員報酬を少なくすることで落とし穴にハマる危険があることをご存知でしょうか。
将来的なお金の減少や、会社としての信用を落とすリスクも。

 
本記事では、前半部分で役員報酬を少なくするメリット・デメリットを解説し、後半部分では役員報酬の決め方や注意点を解説しています。
 
「こうしておけばよかった」という後悔を避けられますので、ぜひ最後までご覧ください。
 

役員報酬を少なくする3つのメリット

実際に役員報酬をゼロにする経営者もいますが、どのようなメリットを受けているのでしょうか。
 
メリットは次の3つです。
 
個人の税金や社会保険料を抑えられる
会社を軌道に乗せられる
将来のキャッシュを増やせる
 
では、順番に解説します。
 

【メリット①】個人の税金や社会保険料を抑えられる

極端な話、役員報酬をゼロ円にすると個人が支払う所得税・住民税・社会保険料もゼロ円になります。
 
役員報酬は税法上、会社員や従業員が受け取る給与所得と同じ扱いを受けるからです。
 
役員報酬といえどもサラリーマンの給与所得と同じように、年末には所得税・住民税・社会保険料が源泉徴収されます。
 
ちなみに役員報酬と従業員等の給与所得との大きな違いはこちら。
 
労務への対価ではなく、役員という責任への対価
最低賃金の考え方はない
報酬金額をゼロ円にできる
 
上記の違いにより、社長個人としての所得にまつわる税金を極限まで抑えられるメリットがあります。
 

【メリット②】会社を軌道に乗せられる

個人にお金を残さないということは、裏を返すと会社にお金が残ることになります。
 
つまり会社設立初期など、会社経営を軌道に乗せるために会社へ資金を残せるメリットがあります。
 
会社が安定して収益を上げられるまでは、あえて役員報酬をゼロ円にする経営者も。
 
ただ、後述するデメリットは必ず押さえてくださいね。
 

【メリット③】将来のキャッシュを増やせる

すでにある制度や仕組みを活用した場合です。
 
これらの対策を行えば、少ない役員報酬としながらも会社として積立しつつ節税ができるので、将来的に個人に還元されるお金を増やせます。
 
養老保険や年金保険(※保険の内容・加入者によっては経費計上できない恐れも御座います。専門家へご相談ください)
経営セーフティ共済
役員社宅などの福利厚生制度
 
 
戦略的に節税しながら将来のお金を貯められるわけですね。
 
うまく活用していきましょう。
 

役員報酬を少なくする5つのデメリット

とはいえ、役員報酬を少なくする前にデメリットを十分に把握しましょう。
実は…デメリットの方が多いんです。
 
デメリットは次の5つです。
 
①全体的に節税にならない場合がある
②社会保険に加入できなくなる
③年金の受給額が少なくなる
④生活費がなくなり役員貸付金へ手を出してしまう
⑤融資が受けられない可能性がある
 
順番に解説します。
 

【デメリット①】全体的に節税にならない場合がある

結局、個人と法人の所得に対して何%課税されるかにより損得が分かれます。
 
個人の納税額を考えると、役員報酬が少ない方がメリットがあるでしょう。
しかし、一方で法人の納税額はその分増えてしまいます。
 
例えるなら、シーソーのような関係性。
もちろん会社の利益や規模などにも左右されますが。
 
ですので、個人と法人へ課税される分岐点を見極めないと、節税効果が薄まります。
 
特に、マイクロ法人を運営するオーナー社長の場合は、個人であろうと法人であろうと最終的には自分の負担となりますのでご注意を。
 

【デメリット②】社会保険に加入できなくなる

基本的に役員報酬がゼロ円の場合、社会保険の加入が断られます。
要件を満たさないことが原因だからです。
 
その場合は国民健康保険へ加入することになります。
 
さらに、下記のデメリットも発生します。
 
世帯全体の保険料が多くなる
傷病手当金と出産手当金などを受給できない
 
国民健康保険と違い、社会保険では親族を扶養に入れられます。
つまり、家族の社会保険料の負担はゼロ円に。
 
しかし、国民健康保険の場合は家族全員が保険料を負担する必要があるのです。
 
また、社会保険には傷病手当金や出産手当金などの受給資格が付与されます。
これらは条件を満たせば大きな金銭的なメリットとなるでしょう。
 
社会保険に加入する方がメリットが多いと言われるのは上記の理由があるからですね。
 

【デメリット③】年金の受給額が少なくなる

役員報酬をゼロ円とした場合、社会保険へ加入できず厚生年金の受給資格も失います。
 
受給できる年金は国民年金のみとなり、将来受け取る年金も減ることに。
 
こちらも厚生年金に加入した方がメリットが多いと言われるポイントです。
 
安易に役員報酬をゼロ円とせずに、将来への影響予測をしっかり行いましょう。
 

【デメリット④】生活費がなくなり役員貸付金へ手を出してしまう

少ない役員報酬では生活費が足りなくなる恐れがあります。
 
当然、会社からの役員報酬以外に所得がない限り生活はできませんよね。
 
個人としての所得がなく生活に困窮する場合はどうするのか?
 
そこで考えられるのが会社への借入。
役員報酬がない(もしくは少ない)ので、会社からお金を借入金として引き出すことに。
 
これは会社から見ればオーナー社長への『貸付金』となります。
 
決算書上は『役員貸付金』となり、税務上は認定利息を計上しないといけません。
つまり、会社にとっては利益の発生を意味しますので、その分の法人税等の負担が発生します。

 
さらなる懸念点は次のとおりです。
 

【デメリット⑤】役員貸付金が原因となり融資が受けられない可能性がある

役員貸付金には
 
融資元の信頼を失いかねない
結果的に節税にならない
 
という、2つのリスクが伴います。
 

融資元の信頼を失いかねない

役員貸付金は銀行などの融資元に非常に嫌われます。
 
通常、お金を貸す銀行は民間の調査会社を使って信用調査を行いますが、役員貸付金も必ずチェックされます。
 
もちろん調査を断れますが、多くの場合は融資元からの依頼で行われるのでプラスに働くことはないでしょう。
 
適切に役員報酬が設定されていないと、融資元の信頼を失うことにつながりかねません。
 
銀行などの融資元は下記のようなリスク管理をしています。
 
・事業以外の目的で融資したお金を使われるかもしれない
・融資したお金が戻ってこないかもしれない
 
また、役員報酬を少なくした結果として役員貸付金を作ってしまうと
 
どうして役員貸付金が発生したのか?
今後どのように解消するのか?
 
を問われ続けられます。
 
役員貸付金の額が大きかったり、年々増えている場合は特にご注意を。
 
役員報酬以外にも収入がある
家族に一定の収入がある
 
などの理由があれば別ですが、創業融資などでは悪い印象につながりかねません。
 
ちなみにこのような場合、結果的には役員報酬を増額した(役員貸付金はないもの)と仮定して審査が進むことになります。
 

結果的に節税にならない

先に節税した部分を、事後的に支払う構造になりかねません。
 
役員貸付金を解消するには、役員報酬に加えて返済分の支給を受ける必要があります。
 
ということは、個人の受け取る金額は『役員報酬+返済分』になり、所得税・住民税・社会保険料の負担が大きくなってしまうからです。
 
結果的に、役員報酬を少なくして節税した部分を後から埋める構造になってしまいます。
 

役員報酬は先を見通して決めよう

 
役員報酬を少なくする場合には、先を見通した金額設定を行いましょう。
 
その理由は下記の2点。
 
役員報酬は期中に変更できない
設立3期目からは消費税の支払いがある
 
ぜひ参考にしてください。
 

役員報酬は期中に変更できない

役員報酬は定期同額給与の考え方に基づき、変更できるのは事業年度開始から3ヶ月以内と決まっています。
 
それ以降の変更は金額の低い方を定期同額給与とみなされますし、増えた役員報酬の金額は経費として計上できません。
 
さらに、赤字であっても役員報酬は決めた金額を必ず支払わないといけません。
 
つまり先を見通す力が求められます。
 
例えば、
 
役員報酬を差し引く前の利益を出す
将来的に必要になる支出を見積もる
役員報酬が必要資金に食い込まないか事前予測する
 
このように年間の収支や経営状況の見通しを踏まえた報酬金額の設定を行いましょう。
 
また、法人税と個人にかかる税金をシミュレーションすることもお忘れなく。
 
「役員報酬は低けりゃいい!」ってものではなく、法人と個人とでの税負担のバランスが重要です。
 
もちろん対外的に資金調達を必要としない会社は、役員報酬をゼロ円にしても問題ないでしょう。
 
しかし、役員報酬のゼロ円にはリスクも伴うので、無理のない範囲で役員報酬はきちんと設定することをおすすめします。
 

設立3期目からは消費税の支払いがある

会社を設立して1〜2期目は、基準期間がありません。
そのため、特例の判定に抵触しなければ、免税事業者に該当するため、3期目まで消費税の支払いがありません。
 
しかし、3期目以降は消費税の支払いが発生しますので、役員報酬を上げる場合にも先を見通した設定を行いましょう。
 ※基準期間の課税売上高が1,000万円超で課税事業者となります。
  1,000万円以下の場合も、特定期間の判定や、課税事業者選択届出書の提出の有無は確認します。

 

まとめ

今回は役員報酬を少なくした場合のメリット・デメリットについてお話ししました。
 
盲点となりがちなデメリットをおさらいしましょう。
 
全体的に節税にならない場合がある
社会保険に加入できなくなる
年金の受給額が少なくなる
生活費がなくなり役員貸付金へ手を出してしまう
役員貸付金が原因となり融資が受けられない可能性がある
 
必ずしも役員報酬が少ないからといって良いことばかりではありません。
 
個人での所得税を負担することを前提に、役員報酬を少しでも支給して、将来を見通した社会保険への加入や、資金調達を視野に入れた対外的な信用対策を念頭におきましょう。
 
また、株主が一人であれば、法人の財産は最終的に株主の元へ行き、課税されます。
配当で得るのか、退職金で得るのか、株式譲渡で資産を得るのか、出口までイメージしましょう。

 
その際は適切なシミュレーションが必須です。
専門家への相談も視野に入れることもおすすめです。
 
法人の所得や個人の所得、家族構成や今後の利益予測等、総合的に判断していきましょう。
 
 
 
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監修者  
 

税理士 篠塚啓三
税理士 篠塚啓三
1975年生まれ 埼玉県所沢市出身
早稲田大学商学部卒業
関東信越税理士会、所沢税理士会に所属
 
 
大学卒業後、一般企業を経て
 平成15年4月 シン中央会計 入社
 平成18年12月 税理士登録 登録番号106985
 平成29年11年 税理士法人シン中央会計 代表に就任

主に創業間もないスタートアップの顧客向けに、クラウド会計の導入やバックオフィスの合理化、経営数値の見える化や事業計画作成、金融機関からの資金調達など、幅広い支援を行っている。

 
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