【法人成り】車両の引き継ぎは『売買』がおすすめ【3パターンで解説】

2023.06.16

個人事業は順調なので節税面も考慮して今後は法人化しよう!
 でも、個人で使っていた車両はどうやって法人に引き継げばいいんだろう?
 
個人と法人での減価償却の違いは?どちらがお得か知りたい。
こんな悩みにお答えします。
 
個人から法人へ車両を引き継ぐには3つの方法があり、結論的には売買契約をもとに引き継ぐのがもっとも負担が軽くベターな選択肢と言えます。
 
しかし、『なぜ売買による引き継ぎがいいのか?』まで知ることで、より適切な判断ができるでしょう。
 
本記事では、
 
法人成りに伴う車両の引き継ぎ方法3つ
法人が引き継いだ車両をお得に減価償却できる理由
車両の名義変更の方法や引き継ぎ時のよくある質問
 
をお伝えします。
 
このように法人成りに伴う車両の引き継ぎに関する周辺知識もお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。

 

法人成りに伴う車両の引継ぎは『売買』がおすすめ【3パターンで解説】

個人事業を法人化することを『法人成り』と言います。
 
法人成りすれば節税面で有利な点もあり、会社として対外的に信頼を得やすいメリットなどもあります。
 
ここで必要になるのが、個人事業主時代の資産・負債を法人へ譲渡する手続きです。
その際に、法人税法上で考えなければいけないのが『法人が買い取る価額』です。
 
基本的には時価で取引をしますが、今回は特に車両の引き継ぎについてご紹介します。
 
法人成りに伴う車両の引き継ぎ方法は主に以下の3つ。
 
売買契約
賃貸借契約
使用貸借契約
 
いずれの方法も税務調査では使用実態や資産の所在地を確認されますので、契約書や使用実態のわかる書類は必ず用意しておきましょう。
 
では、それぞれ順に解説します。

個人・法人間での『売買契約』による引き継ぎ

結論、売買によって譲渡するのがもっともベターな方法です。
 
売買価額は『時価』に基づき、
 
中古車査定における買取価額
店頭販売価額
 
などを参考に決めます。極端に乖離がなければどちらでも問題ありません。
また、時価と帳簿価額の差が少ない場合は、帳簿価額でも問題ないでしょう。
 
肝心なのは、妙な価額操作をしていないこと。
 
査定時の見積書を保管しておくなど、客観的に金額の妥当性を説明できるようにしましょう。

 

経費として計上できる範囲が増える

法人へ名義が変われば、引き継いだ車両の減価償却費を経費として計上できます。
また、ガソリン代・自動車税・保険料・車検代などのランニングコストも経費へ算入して問題ありません。
 
法人の事業に使われる車両ですので、個人事業主のように仕事とプライベートで使用割合を区別して税務申告する必要はありません。
 
基本的には全額経費として計上できるというわけです。

 

『売買契約』による引き継ぎの注意点3つ

会社へ売買(譲渡)して個人に譲渡益が出たなら確定申告が必要
会社の車としての妥当性が求められる
売買契約を結び、代金決済の期限を明記する
 
1点目の譲渡益が発生した場合は、個人として確定申告をお忘れなく。
 
2点目ですが、「その車は事業として必要かどうか?」で判断されるので、事業内容に適した車両を引き継ぎましょう。過去にフェラーリなどの高級外国車が否認されたケースがあるようですのでご注意を。
 
3点目は、税務官へきちんと説明するための対策です。
経費として計上する以上は、税務署に車両の名義が法人に移っている証拠を示せるようにしましょう。また、代金が決済されていないと個人が法人から借り受けしていると判断されるリスクがありますので、代金決済の期限は明記して取引を完了させましょう。

個人・法人間での『賃貸借契約』による引き継ぎ

名義は個人のままで法人に貸し出し、法人は個人に賃料を支払う形態を指します。
 
たとえば、自動車保険の等級を引き継げず、保険料が高くなるので、個人・法人間で賃貸借契約を結ぶ場合など。
 
もちろん車両は法人の事業に使用するので、法人は車両のランニングコストを全額経費として計上できます。
 
ただし、賃料を受け取る個人には雑所得が発生しますので、必ず確定申告をしましょう。

個人・法人間での『使用貸借契約』による引き継ぎ

個人から法人へ車両を無償で貸し出す形態を指します。
 
本来、無償の取引でも課税関係は発生します。
しかし車両に関しては金額が少ないケースが多いので、課税上の弊害もないとみなされ使用貸借も慣例的に認められています。
 
こちらも方法でも、法人はランニングコストを全額経費として計上できます。
 
ただし、あくまで個人所有の車両ですので、法人・個人での使用分は明確に分けましょう。
 
 

法人が引き継いだ車両をお得に減価償却できる理由

個人も法人も税務上は所有する車両を減価償却できる点に差はありません。
 
では、法人成りするとどうしてお得に減価償却できるのでしょうか。
 
耐用年数
償却方法
償却費の計上が『任意』もしくは『強制』
 
の違いより紐解いていきます。

中古資産の耐用年数を適用できる

法人成りして車両を引き継いだ場合、法人側では『中古資産』として受け入れます。
 
つまり、中古資産の耐用年数が適用されますので、新車購入に比べると早期の費用化ができ節税対策につながります。
 
なお、個人事業主時代の未償却年数を引き継いで減価償却をしてはいけません。

定率法の適用により早期に費用化できる

減価償却では『定額法』『定率法』の2通りの計算方法が用いられます。
 
定額法:毎年の減価償却費が同額になるように計算する
定率法:資産の帳簿価額に一定の割合を乗じて計算する
 
そして法人では下図のように、車両の償却方法は自動的に定率法が選択されます。
 
個人(所得税)→定額法
法人(法人税)→定率法(建物以外)
 
ですので、定率法を用いる法人では、帳簿残高が大きい初期に減価償却費を多く計上できるのです。
 
ちなみに、定率法から定額法へと償却方法を変更できますので、その場合は所轄の税務署へ届出を行いましょう。
 ※法人の設立年度の場合は決算申告日が届出書の期日です。
 
ただし、一旦選択した償却方法は3年間は変更できないのでご注意を。

減価償却費を柔軟に計上できる

法人は減価償却費の計上は任意とされていますので、個人事業主に比べて漏れなく償却費を計上できます。
 
ちなみに個人事業主の場合は強制と決められており、仮に償却費の計上を忘れてしまうと、その年の償却費は計上できません。
 
償却費の計上が任意だと、
 
償却費の計上を忘れた
償却費を少なく計上してしまった
独自の規定で限度額以下で計上した
 
などの場合も、翌年以降に経費として計上できます。
 
このように法人の方が償却費をより柔軟に経費計上できるメリットがあります。
 
※金融機関では、償却限度額で償却があったとみなします。
  そのため、償却額の差異がある場合は償却限度額へと調整を行ってから格付を行います。
  金融機関に対する見栄えをよくする目的で減価償却費を計上しない選択肢をとったとしても、
  効果は薄いので、ご注意ください。

 

引き継いだ車両の名義変更に必要な書類

個人から法人への名義変更する手続きは、新しい名義人である法人の所在地を管轄する運輸局で行います。
 
【必要書類一覧】

・自動車検査証
・譲渡証明書
・会社の代表印とその印鑑証明書
・個人の実印とその印鑑証明書
・車庫証明書
・申請書(OCR申請書第1号様式 ←名義変更に必要な書類)
・手数料納付書
・自動車税、自動車取得税申告書
・リサイクル券、自賠責保険証
 
これらの必要書類を提出して不備がなければ、その場で新しい車検証が交付されます。
 
なお、取締役名義の車を会社名義に変更する場合は、株主総会の承認が必要です。
利益相反取引を防ぐ目的で法律上求められる手続きだからです。
自分ひとりの会社であっても必ず手続きを行いましょう。

 

法人へ車両を引き継ぐときによくある質問

法人成りに伴う車両の引き継ぎには、さまざまな手続きが伴います。
ここではよく寄せられる質問への回答をご紹介します。

法人成りに伴う車両の名義変更はすべき?

法人成りとともに法人へ車両を売却した時点で、車両は法人名義になります。
 
費用の全額を経費計上するには、個人名義から法人名義へ変更しましょう。

法人へ車両を引き継いだときの消費税の取扱いは?

法人へ引き継ぐ車両の販売価額は消費税の対象になります。
 
法人へ車両を売却した利益の有無に関係ありません。
というのも、そもそも消費税は売却益ではなく売却収入を売り上げとして認識するからです。
 
つまり、その売却収入が課税売り上げとして未計上であれば、計上漏れとなってしまいます。
 
個人事業主として免税事業者でない限り、車両を引き継いだ年度の消費税は納税する必要がありますのでご注意ください。

法人へ自動車保険の等級は引き継げるの?

結論、いくつかの条件を満たせば加入できます。
 
たとえば、
 
・記名被保険者が同じ
・新しく設立された法人である
・個人事業主としての事業と同じ内容である
・法人設立した段階で自動車保険に加入している
 
などの条件です。
 
しかし、これらは保険会社により異なる場合があります。
また、引受審査の基準が改訂されることで変更される場合もありますし、そもそも通販型の損害保険会社では取り扱いがないケースも。
 
事前に保険会社や保険代理店に相談することをおすすめします。

  

まとめ

今回は法人成りに伴うの車両の引き継ぎ方法についてお話ししました。
 
内容は下記にまとめましたので、確認しておきましょう。
 
法人への車両の引き継ぎは『売買契約』による譲渡がおすすめ
きちんと売買契約書や時価のわかる見積書などを残す
法人は個人よりも減価償却するうえで有利な点が多い
引き継いだ車両の名義変更は、必要書類を整えて法人のある所在地の運輸局で行う
 
『売買』では、時価の計算に使った見積書などは必ず保存しておきましょう。
『賃貸借』『使用貸借』では、使用状況のわかる書類などを作成しておきましょう。
 
いずれの引き継ぎ方法でも、個人・法人間で契約書の作成はお忘れなく。
 
税務調査では詳しく実態について調べられるので、きちんと説明できるように対策しましょう。
 
本記事を参考に、車両の使用状況や実態なども踏まえ、ご自身にあった適切な方法を選んでくださいね。
 
 
 
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監修者  
 

税理士 篠塚啓三
税理士 篠塚啓三
1975年生まれ 埼玉県所沢市出身
早稲田大学商学部卒業
関東信越税理士会、所沢税理士会に所属
 
 
大学卒業後、一般企業を経て
 平成15年4月 シン中央会計 入社
 平成18年12月 税理士登録 登録番号106985
 平成29年11年 税理士法人シン中央会計 代表に就任

主に創業間もないスタートアップの顧客向けに、クラウド会計の導入やバックオフィスの合理化、経営数値の見える化や事業計画作成、金融機関からの資金調達など、幅広い支援を行っている。

 
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