【法人成り】資産の引き継ぎ方法でお困りの方へ【もう悩まない】
2023.06.09
・法人成りしたけど、資産はどうやって引き継げばいいの?
・法人へ引き継ぐ資産の種類は?注意点は?
・引き継ぐ資産にまつわる税務関係について知りたい。
こんな悩みにお答えします。
法人成りしたものの、資産の種類を把握して、それぞれの引き継ぎ方法を検討するって本当に大変ですよね。
とはいえ、資産を適当に引き継いでしまうと、思わぬ税金を払うハメになったり、不要な仕事に見舞われかねません。
何事も事前の対策が肝心。
これまでいただいた多く税務に関する相談をもとに、下記の内容を中心にお伝えします。
・法人へ資産を引き継ぐ3つの方法
・4種類の資産の特徴と押さえておきたい注意点
・引き継いだ資産を賢く償却する3つの方法
後悔したり損しないためにも、ぜひ最後までチェックしてくださいね。
目次
【法人成り】資産を引き継ぐ3つの方法
資産の引き継ぎ方法は主に3つです。
・売買契約
・現物出資
・賃貸借契約
税務上は「個人」と「法人」を区別して、別人格として扱います。
ですので、個人・法人間の売買取引として会計・税務処理をしなければなりません。
資産を引き継ぐことで個人には所得税が課税され、法人は必要経費として処理します。
では、くわしく見ていきましょう。
売買契約
結論、もっとも一般的な資産の引き継ぎ方法です。
というのも、売買契約書を交わすのみなので、手続きが簡単だからです。
売買価額は、中古市場などの時価(相場)を基準にします。
個人には譲渡に伴い、譲渡所得が発生します。
ただし、無償でする譲渡は贈与になり、結果的には時価で譲渡したものと扱われ、課税の対象になるのでご注意を。
また、個人から法人へ売買するので、法人には買い取る資金が必要です。
買い取った資産は減価償却費として経費に計上できます。
法人成り直後で法人に資金がない場合は、法人から個人への未払金として処理します。
税務調査では売買による譲渡を証明する必要がありますので、きちんと売買契約書を作成しましょう。時価のわかる見積書などの資料も残しておきましょう。
現物出資
現物出資は、下記のような金銭以外の資産を法人へ引き継ぐ方法です。
・動産(パソコン、車など)
・不動産(土地、建物など)
・有価証券(債券など)
・無形資産
現物出資は金銭出資として扱われますので、個人には譲渡所得が発生します。
法人は資産を時価で受け入れるため資本金が増えます。
しかし、自由に使えるキャッシュが増えるわけではありません。
手続きが煩雑ですし、手間がかかるデメリットもあります。
現物出資の注意点はこちら。
・定款に現物出資をする発起人の氏名などの情報を記載する必要がある
・裁判所の選任した検査役によるチェックを受ける必要がある
ただし、次の場合には検査役の調査を省略することができます。
・現物出資する財産の総額が500万円以下
・出資する財産が市場価格のある有価証券で、定款に記載した価額が市場価格以下
・現物出資する財産の価額が相当であると弁護士・税理士などの証明を受けた場合
※不動産については不動産鑑定士の鑑定評価も必要
売買に比べると手間や手続きが多いので、慎重に判断しましょう。
賃貸借契約
賃貸借契約書を交わし、法人から賃借料を受け取る方法です。
『土地・建物』のような、売買による引き継ぎがしにくい場合に使われます。
賃料は売買と同じく、時価をベースに価額を決めます。
土地や建物は周辺の相場を参考にして、適正な賃料を設定しましょう。
賃貸借なので、
・所有権は個人のまま法人にモノを貸し出す
・法人は個人へ毎月の賃借料を支払う
というように、土地や建物などの不動産を貸し出すと、個人には不動産所得が発生します。
貸し出す限りは、個人事業主として確定申告を続ける必要があります。
賃貸借契約は、引き継ぐ資産の種類によって検討しましょう。
ここまでが資産の引き継ぎ方法です。
次は資産の種類について解説します。
法人へ引き継ぐ資産は4種類
主な引き継ぐ資産としては、下記の4種類です。
・棚卸資産
・減価償却資産
・債権
・土地・建物
それぞれの取引価額(引き継ぐ資産の時価)の考え方も押さえておきましょう。
棚卸資産(商品や製品などの在庫)
一般的には、通常の取引価額(販売価額)で売買して引き継ぎます。
なお、不良在庫の引き継ぎは認められていません。
個人には事業所得が課税され、法人側は時価で受け入れます。
譲り受けた価額が時価よりも低い場合の差額は受贈益として扱われますが、事業所得の計算上、「通常の販売価格×70%」程度の金額までであれば値下げが認められています。
ちなみに、下記のような価値が低下しているものは処分可能価格(時価)を取引価額として問題ありません。
・季節外れの商品
・型落ちの商品
・破損した商品
ただし、不動産業等は除きますのでご注意を。
法人による棚卸資産の買取りは通常の販売価額の70%程度の範囲で、合理的な金額で決めましょう。
減価償却資産(設備などの固定資産)
こちらも売買での引き継ぎが一般的です。
時価は下記を参考に決めることが多いです。
・固定資産税評価額
・販売業者の見積金額
・類似物件・商品の市場流通価額
個人には事業所得ではなく、譲渡所得が課税されます。
なお、次項でくわしく解説しますが、『みなし譲渡所得課税』にもご注意ください。
法人側では「再取得価額×旧定率法未償却残額割合=時価」とする、法人税基本通達の規定がありますので、実務上は帳簿価額による譲渡で大きな問題になることはありません。
また、引き継いだ資産は『中古資産』としての耐用年数で償却します。
新品と比べて短い期間で償却できますので、早期に費用化できるメリットも。
特殊な機械など時価の算定が難しい場合など、判断に困るときは税理士への相談も視野に入れましょう。
債権・債務
下記のような債権・債務は、実務上は引き継がないことが多いです。
・売掛金
・買掛金
・未払金
・預かり金 など
債権者の同意や取引先への名義変更通知など、手続きが煩雑ケースが多く手間がかかるからです。
引き継ぐ場合は『簿価=時価』として引き継ぐことが多いので、譲渡損益は発生しません。
所得が発生する際には事業所得として扱われます。
なお、不良債権の引き継ぎはできません。
貸し倒れの事実がある債権を引き継いだ場合、法人から利益を受けたと見なされて課税される恐れもありますのでご注意を。
引き継ぐ場合は、確実に回収できる金額にしましょう。
土地・建物
賃貸借契約で引き継がれることが多いです。
理由としては、
・不動産取得税
・登記費用
・抵当権の抹消費用
などのコストがかかるからです。
譲渡するにしても建物だけ譲渡し、土地は譲渡しないことも多いです。
個人の不動産の簿価(取得費)が時価より低い場合などは、個人の側では譲渡所得が分離課税として課税されます。
なお、引き継ぐ土地・建物について金融機関から融資を受けている場合は、金融機関の意向を確認しましょう。個人から法人への名義変更を求められるケースもあります。
法人へ時価と異なる金額で資産を引き継ぐときの注意点
引き継ぎ価額は低すぎるのも高すぎるのも良くありません。
『低廉譲渡』と『高額譲渡』を例に挙げて説明します。
低廉譲渡(みなし譲渡所得課税に要注意)した場合
著しく低い金額で法人へ引き継ぐ場合を指します。
たとえば、「個人の売上を低くしたい」などです。
しかし、みなし譲渡所得課税にはご留意ください。
【みなし譲渡所得課税とは】
・個人が法人へ無償で譲渡(贈与)した場合
・個人が法人へ著しく低い価額(時価の2分の1未満)で譲渡した場合
に、本来の時価で譲渡したとみなして、個人には譲渡所得が課税される仕組みです。
なお、対象になるのは譲渡所得です(※事業として売却したときの所得は除く)。
これは本来の負担すべき所得税の回避を防ぐことを目的としています。
また、時価と低くした金額との差額は、『受増益』として法人側で収益計上する必要も発生しますのでご注意ください。
高額譲渡した場合
時価よりも高い金額で引き継ぐ場合を指します。
たとえば、個人側に多くのお金を残したいなどの理由で。
もちろん個人側では所得税が課税されます。
時価と高くした金額との差額は法人から個人への『寄付金』として扱われますので、法人税が課税されます。
法人が少額資産を賢く償却できる3つの方法
下記の3つの方法を活用すれば、法人は引き継いだ資産を賢くお得に償却できます。
・少額減価償却資産
・一括償却資産
・少額減価償却資産の特例
これらは通常の減価償却よりも早い段階で費用計上できる共通点があります。
【少額減価償却資産】
・使用可能期間が1年未満のものや、取得価額が10万円以下の資産が対象
・一括して償却費を計上できる
・取得価額が10万円以下のうち、少額重要資産に該当するものは譲渡所得
ただし、反復継続して売買するようなものは事業所得
【一括償却資産】
・取得価額が10万円以上20万円以下の資産が対象
・法定耐用年数に関係なく、取得価額の3分の1を3年間に渡って費用計上できる
【少額減価償却資産の特例】
・中小企業が対象
・取得価額が10万円以上30万円未満の資産が対象
・年間300万円まで一括して償却費を計上できる
月数に応じて上限が決まる(たとえば事業年度が6ヶ月だと上限が150万円)
・『少額減価償却資産の明細』や『適用額明細書』を青色申告書へ添付する必要あり
・償却資産税が課税される
それぞれの特徴を押さえたうえで、引き継いだ資産は賢く償却しましょう。
法人成りで引き継いだ資産には消費税がかかる
対価が伴う下記の資産の引き継ぎは、消費税の課税対象取引に該当します。
・売買による譲渡
・現物出資
・贈与
もちろん、賃貸の場合も同様。
個人側は資産を貸して得られる賃貸料に消費税がかかります。
ただし、すべての取り引きに消費税がかかるわけではありません。
以下は消費税のかからない取り引きです。
①土地、および土地の上に存する権利
土地と建物を一括して譲渡する場合、建物部分は課税対象取引
②有価証券
預金、貸付金、売掛金等の金銭債権を含みます
③支払手段
現金、小切手、約束手形など
④物品切手
商品券、図書券、プリペードカードなど
⑤社会福祉事業又は更生保護事業等としての資産、身体障害者物品
⑥土地の貸付
⑦住宅の貸付
・社宅等居住用建物の貸付は非課税取引
・事業用建物の貸付は課税対象取引
免税事業者でない限り、消費税が発生しますので忘れずに納付しましょう。
まとめ
今回は法人成りに伴う資産の引き継ぎ方法を中心にお話しました。
以下、本記事の振り返りです。
・資産の引き継ぎ方法は3つ(売買、現物出資・賃貸借)あるが、売買による譲渡が一般的
・資産は大きく4種類(棚卸資産、減価償却資産、債権・債務、土地・建物)
・引き継ぐ資産の価額は高すぎても低すぎても、思わぬ税金が発生する
・課税事業者は消費税の納付を忘れずに
個人・法人の状況によっては、臨機応変に対応する必要もあるでしょう。
その際は、税理士などへの相談も視野に入れることをおすすめします。
法人へ適切に資産を引き継ぎ、法人として素晴らしいスタートを切りましょう。
関連コラム:個人事業主が法人成りしたときの注意点
税理士 篠塚啓三
1975年生まれ 埼玉県所沢市出身
早稲田大学商学部卒業
関東信越税理士会、所沢税理士会に所属
大学卒業後、一般企業を経て
平成15年4月 シン中央会計 入社
平成18年12月 税理士登録 登録番号106985
平成29年11年 税理士法人シン中央会計 代表に就任
主に創業間もないスタートアップの顧客向けに、クラウド会計の導入やバックオフィスの合理化、経営数値の見える化や事業計画作成、金融機関からの資金調達など、幅広い支援を行っている。
※本サイトに掲載の内容は、令和5年6月現在の法令に基づき作成しております。