【家族への役員報酬はどう決める?】知らなきゃ損する節税メリットと注意点

2023.05.31

・家族への役員報酬はいくらまで認められるの?
・家族へ役員報酬を支払うメリット・デメリットは?
・家族に対する役員報酬の注意点も知りたい
 
こんな悩みにお答えします。
 
個人事業主による事業専従者への給与とは異なり、法人にこそ許される役員報酬。
法人を設立したからには家族の協力も得つつ、節税なども検討したいところですよね。
 
結論、税制面でのメリットなども多いため、家族へ役員報酬は早めの検討をおすすめします。
 
とはいえ、『どれくらい報酬を払っていいのか?』という点を押さえないと、税務調査での指摘も受けやすく、金銭的に取り返しがつかなくなることも。
 
本記事の前半では家族への役員報酬についての考え方を、後半ではメリット・デメリットを深掘りして説明します。
 
容易ではない家族への役員報酬の金額設定。
だからこそ本記事を参考にしながら、健全な家族経営と適切な節税対策をしていきましょう。
 

家族に対する役員報酬はいくらまで認められる?

結論、明確な基準はありません。
 
だからこそ、役員報酬は金額設定をコントロールしやすく、税務調査でも目をつけられるポイントになります。
 
まずは基本の考え方を押さえていきましょう。
 

役員報酬の決め方に明確な基準はない

「役員報酬が対価として相当と認められる金額かどうか」がポイントです。
 
法律では具体的な金額や基準について規定されていないからです。
 
では、役員報酬を決める2つの基準を説明します。
 
1つ目は「実質基準」です。 
 
・職務内容
・勤務実態
・勤務年数
・業務への責任割合
・年齢や会社への貢献度
・会社の業績
・従業員の給与とのバランス
・同業他社との比較 など
 
これらをもとに判断していきます。
 
2つ目は形式基準です。
 
定款や株主総会の決議で報酬金額の限度額を決めている場合は、その限度額が上限となります。
 
とはいえ、
「あくまで基準でしょ?わかりづらいよ…」
という声に応えるべく、実務的な考え方を2つ紹介します。
 
①家族以外の役員報酬を参考にする
家族以外の役員がいる場合は、その役員と同じ金額水準を目安に考えましょう。
 
②過去の税務調査結果や判例を参考にする
役員がすべて親族の場合は、①の方法は使えません。
なので、過去のデータを参考にするとよいですね。
 
いずれにせよ、明確な基準や根拠に自信がない場合は、税理士などの専門家にアドバイスを求めるのがおすすめです。
 

明確な定義はないからこそ根拠が必要

役員報酬として決めた金額には、きちんとした理由が求められます。
 
注意点は2つ。
 
【注意点①】勤務実態はきちんとあるか
 
家族が役員報酬に見合った働きをしているかという実態が必要です。
 
従業員とは異なり、役員は時間労働をしなくても報酬が得られるので、いかに経営に関わっているかという点が重要になります。
 
具体的には、
 
・家族の発言がどのように会社経営に貢献しているか
・役員としての活動がどのようなものか
 
これらを議事録などに残し、証明できるようにしましょう。
 
多少職務の内容があいまいでも、過去の裁判例では『よき相談相手』として年間報酬200万円程度は妥当とされた事例もありますが、参考までに。
 
【注意点②】役員報酬の金額はいくらでもよいわけではない
 
金額の妥当性も役員の実態に左右されます。
 
・いくらまで認められるか?
よりも、
 
・どれくらい会社へ貢献しているか?
が重視されます。
 
つまり、勤務実態があるうえで、役員としての会社に対する貢献度合いも肝心です。
 
たとえば、役員として会社経営に携わり、業績が向上したなどの貢献度が評価できれば、家族への役員報酬は社長の報酬額の7割前後の水準を妥当とする考え方もあります。
 
また、家族といっても以下のケースでは税務署から否認されています。
・大学生である息子を役員として月に数万円支払っていた
税務署員が息子さんに「どんな業務をしているの?」などと質問した際に答えられないようでは、名ばかりの役員としか思われません。
 
とはいえ、会社への貢献が明確であり、職務をまっとうした形跡をきちんと証明できる場合は高額な役員報酬を設定しても問題ないでしょう。
 

役員報酬は定期同額の場合のみ費用になる

原則、役員報酬は期中に変更することはできません。
定期同額の考えに基づき、変更できるのは1年に1回のみ。
 
変更できる時期は決算期から3ヶ月以内と決められています。
 
不当な利益操作による節税などを防止する狙いがあるからですね。
 
税額に大きな影響を与える役員報酬ですが、事業年度における売り上げ予測などを綿密に行って設定しましょう。
 

家族に役員報酬を支給するメリット6選

下記の6つを順番に解説します。
 
①所得分散させて節税できる
②贈与税・相続税対策ができる
③老後の年金額が増える
④退職金を準備すると節税できる
⑤倒産リスクに対処できる
⑥高額な報酬を設定できる
 

【メリット①】所得分散させて節税できる

役員報酬として家族に配分すれば、一人当たりの所得税が少なくなります。
 
社長ひとりで多額の報酬を受け取るよりも、家族で所得を分散した方が所得税率が低くなるからです。
 
所得税は累進課税制度なので、個人の所得の大きさに応じて5%〜最大で45%の税率が適用されます。
 
では、比較するために下記の計算をご覧ください。
 
【前提条件】
・給与所得控除、基礎控除、社会保険料を考慮
※ 配偶者控除は適用不可、扶養控除は考慮なし
 
【パターン①】社長が2,000万円の場合
役員報酬:20,000,000円
給与所得控除:△1,950,000円
社会保険料概算:△1,680,000円
基礎控除:△480,000円
所得:15,890,000円
(15,890,000円×33%)-1,536,000円=3,707,700円
 
【パターン②】家族へ分散した場合
・社長
役員報酬:10,000,000円
給与所得控除:△1,950,000円
社会保険料概算:△1,290,000円
基礎控除:△480,000円
所得:6,280,000円
(6,280,000円×20%)-427,500円=828,500円
 
・配偶者
役員報酬:6,000,000円
給与所得控除:△1,640,000円
社会保険料概算:△898,000円
基礎控除:△480,000円
所得:2,982,000円
(2,982,000円×10%)-97,500円=200,700円
 
・長男
役員報酬:4,000,000円
給与所得控除:△1,240,000円
社会保険料概算:△610,000円
基礎控除:△480,000円
所得:1,670,000円
1,670,000円×5%=83,500円
 
所得税の差額:△2,595,000円
社会保険料の差額:1,118,000円
※会社負担も合わせると2,272,000円程度の負担が必要
 
役員報酬を社長ひとりではなく家族へ配分することで、所得税は2,595,000円もの節税につながります。
 
一方で社会保険料の負担は増えてしまいます。
しかし、所得税と差し引きしても節税効果が見込めるうえに、メリット③でもお伝えしますが将来的に年金額が増加しますので、表面的な数字以上のメリットがあるでしょう。
 
このように社長一家としての収入は同じでも所得分散すれば、結果として家族全体の手取りは多くなります。
 

【メリット②】贈与税・相続税対策ができる

社長1人の財産として家族へ贈与・相続するよりも、生前に役員報酬として家族に支給した方が節税につながります。
 
所得税と同じく贈与税・相続税も累進課税制度です。
つまり、社長1人の財産が大きくなるほど課税される割合が高まります。
 
生前に資産を個人に集中させずに、役員報酬として分散させた方が、贈与税や相続税をかけずに財産を移転できるわけです。
 

【メリット③】老後の年金額が増える

社会保険への加入条件を満たせば、厚生年金部分を受け取れるからです。
 
社長の配偶者を例に説明します。
 
社会保険では、主婦などの第2号被保険者に扶養されている配偶者は第3号被保険者に該当します。
ですが、役員報酬が年間130万円を超えると第2号被保険者になり、厚生年金への加入が認められます。
 
厚生年金が上乗せされた形で年金受給できますので、結果的に老後の年金が増えます。
 
【注意点】
 
非常勤役員の場合は社会保険への加入はできません。
 
また、常勤と非常勤に明確な定義の違いはありません。
 
・勤務日数
・報酬
・監督権
など、複数の要素から総合的に判断されます。
 
非常勤でも常勤とみなされるケースがありますし、その際は社会保険料を払う必要が発生します。意思に反して保険料の納付義務が生じることもありますのでご注意を。
 
実務的な判断基準は税理士などの専門家に相談するのも対策のひとつでしょう。
 

【メリット④】退職金を準備すると節税できる

退職金は用意する側と受け取る側でそれぞれにメリットがあります。
 
【退職金を用意する側】
 
役員への退職金は経費計上が認められます。
 
役員に対する退職金の計算式は、「最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率」です。
退職するときの役員報酬が高く、長く働いていると、退職金も多くなります。
 
ちなみに、「功績倍率」は役職ごとで確定した数値はありません。
あくまで参考値にはなりますが、具体例としては下記のとおりです。
参考にしてみてください。
 
・社長 3.0
・専務 2.4
・常務 2.2
・取締役 1.8
・監査役 1.6
 
おすすめの退職金の準備方法は『小規模企業共済』
 
これは中小機構による退職金の積立制度です。
掛金はすべて所得控除できるので、大きな節税効果が見込めます。
 
【退職金を受け取る側】
 
退職所得控除による節税メリットがあります。
 
退職所得控除は以下の式で計算します。
 
・勤続年数が20年以下:40万円×勤続年数(最低80万円)
 勤続年数が20年超:800万円+70万円×(勤続年数ー20年)
 
さらに、上記計算式で出た金額には2分の1を乗じるので、半分になります。
 
単純に役員報酬として受け取る場合と比較すると、大きな節税につながることは言うまでもありません。
 
【注意点】
 
過大な役員退職金には要注意。
税務署から否認される可能性があるからです。
根拠のある金額を設定するようにしましょう。
 

【メリット⑤】倒産リスクに対処できる

生活防衛資金を作れるからです。
 
たとえば、社長が自己破産しても、連帯保証人などに該当しない限り、債権者は配偶者の資産にまでは手を出しません。
 
リスクに備えて家族へ生活資金をプールするのに役員報酬が役立ちます。
 

【メリット⑥】高額な報酬を設定できる

従業員への給与とは異なり、金額設定は自由だからです。
 
妥当性のある説明根拠が整うのであれば、大きなメリットと言えるでしょう。
 
【注意点】
 
税務調査で妥当と判断される理由や根拠をそろえましょう。
 

家族に役員報酬を支給するデメリットは2つだけ

 

【デメリット①】採用活動に支障が出るおそれがある

 
家族経営への世間のイメージはあまり良くないことも。
 
・役員になれるのは家族だけ。最初から出世の道は閉ざされている
・儲けの大部分は役員がとって、いくら働いても従業員の給料は安月給
 
このような印象から、新卒が避けることも考えられます。
また、社員の士気が下がる懸念点も。
 
家族経営はブラックな印象を与えかねず、採用活動に支障をきたすおそれがあるでしょう。
 

【デメリット②】業績悪化時に不利になる

 
基本的には、いくら業績が悪化しても定期同額というルールに従い、年間に予定する役員報酬を支払う必要があるからです。
 
「業績が悪化したので役員報酬をコントロールしよう!」など、利益調整には使えません。
 
他にも、節税として決算前に役員報酬を上げて利益を押さえるなどはもってのほか。
もちろん業績が悪化したからといって、基本的に高額な役員報酬を下げることはできません。
 
【注意点】
 
どうしても期中に役員報酬の減額をする場合は、特段申告は必要ないものの、減額決議した総会の議事録などは準備しておきましょう。
 
また、下げた役員報酬は基本的に損金算入できませんが、「業績悪化改定事由」に該当する場合は認められるケースもあります。
 
役員報酬を減額する際は、納める法人税が増える場合がありますので気をつけましょう。
 

まとめ

今回は家族への役員報酬についての考え方とメリット・デメリットを注意点に絡めながら説明しました。
 
家族へ役員報酬を適切に準備できるならば、なるべく早い検討がおすすめです。
その理由は以下のとおり、メリットの多さにあります。
 
①所得分散させて節税できる
②贈与税・相続税対策ができる
③老後の年金額が増える
④退職金を準備すると節税できる
⑤倒産リスクに対処できる
⑥高額な報酬を設定できる
 
家族を役員にすると多くの金銭的なメリットがありますので、家族への役員報酬を積極的に考えてみてはいかがでしょうか。
 
 
 
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監修者  
 

税理士 篠塚啓三
税理士 篠塚啓三
1975年生まれ 埼玉県所沢市出身
早稲田大学商学部卒業
関東信越税理士会、所沢税理士会に所属
 
 
大学卒業後、一般企業を経て
 平成15年4月 シン中央会計 入社
 平成18年12月 税理士登録 登録番号106985
 平成29年11年 税理士法人シン中央会計 代表に就任

主に創業間もないスタートアップの顧客向けに、クラウド会計の導入やバックオフィスの合理化、経営数値の見える化や事業計画作成、金融機関からの資金調達など、幅広い支援を行っている。

 
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