技能実習生の給与計算で失敗しない!5つの視点と3つの注意点
2023.09.01
・技能実習生の給与はどうやって決めればいいの?
・給与を決めるときの注意点が知りたい
・技能実習生と給与面でギクシャクしたくない
こんな悩みにお答えします。
結論、外国人である技能実習生も日本人と同様に、給与は適切かつ公平に支払うことが求められます。
不当な差や不平等な扱いは法的に罰則の対象となり、たとえば最低賃金法の違反では50万円以下の罰金、労働基準法違反では30万円以下の罰金などに処されます。
技能実習生を受け入れる企業としての社会的信用も落としかねないでしょう。
本記事では、
・技能実習生の給与計算で必要な5つの視点
・技能実習生の給与計算で気をつけたい3つの注意点
・技能実習生と給与面でのトラブルを避けるコツ
をお伝えしますので、これから技能実習生を採用するときに必要な基本的となる考え方を身につけられます。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
技能実習生の給与計算で必要な5つの視点
技能実習生の給与計算に必要な5つの視点は次のとおりです。
・最低賃金を決して下回らない
・割増賃金はきちんと支払う
・年次有給休暇をきちんと付与する
・5つの条件を満たして給与を支払う
・技能実習生にも労働関係法令を適用する
大前提ですが、同じ仕事をしている人には同じ賃金を支払う「同一労働同一賃金」の原則に基づいて、不合理な待遇差は解消しましょう。
下記は技能実習生と同じ年齢層にあたる日本人労働者との給与水準の比較です。
引用:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/
現状としては、技能実習生の給与は日本人の高卒者よりも低く、おおよそ同年代にあたる25歳〜29歳の層と比べると大きな乖離があります。
厚生労働省が公表するデータによると、
・労働基準関係法令違反が認められた企業は73.7%にあたる7,247件
・もっとも多い違反が『作業の安全配慮の欠如』で2,326件の23.7%
・次いで残業代などの割増賃金に未払いが1,666件で16.9%
・重大・悪質な法令違反により送検したのは21件
など、統計を取り始めた平成15年以降ではワースト記録を更新しています。
厚生労働省は「度重なる指導にもかかわらず法令違反を是正しないなど重大・悪質な事案に対しては、送検を行うなど厳正に対応する」とコメントしており、企業にとって適切な給与計算が求められるのは言うまでもありません。
では、適切に給与計算をするための5つの視点について順に解説します。
最低賃金を決して下回らない
次の2種類の最低賃金を比べ、金額が大きい方を下回ってはいけません。
・地域別の最低賃金
・特定最低賃金
労働者やその家族が最低限の生活ができる金額として、最低賃金法で定められているからです。
地域別の最低賃金とは、都道府県別に決められる最低賃金額で、毎年10月に改定されます。年々、上昇傾向にありますので時間の経過とともに最低賃金を下回っていないかに注意しましょう。
くわしくはこちらをご覧ください。
特定最低賃金とは、都道府県別に業種によって決められる最低賃金です。
くわしくはこちらをご覧ください。
最低賃金は決して下回らないようにしましょう。
割増賃金はきちんと支払う
労働基準法では1日8時間、週に40時間を超えた労働は許されませんが、労使間で36協定が結ばれていれば超過した労働も認められます。
36協定では、月45時間(超過は年6回まで)・年360時間を超えてはならず、臨時的な特別の事情があり労使が合意する場合でも年720時間・複数月平均80時間(休日労働含む)・月100時間(休日労働含む)を超えてはならない罰則付きの上限が定められています。
超過した場合、下表の率に応じて適切に割増賃金を支払いましょう。
※2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられ、中小企業も大企業と同じように50%が適用される
※出入国管理および入管法により、技能実習生の内職は認められない
なお、賞与(ボーナス)の支給は企業で判断します。
法による取り決めはなく企業が自由に決められますが、技能実習生のモチベーションや信用の低下につながりますので、日本人労働者と変わりなく公平に支給しましょう。
年次有給休暇をきちんと付与する
・技能実習生として雇入れた日から起算して6か月間の継続勤務
・全労働日の8割以上の出勤
を満たす技能実習生には有給休暇をきちんと付与しましょう。
労働基準法で定められていますので、企業の都合で変更してはいけません。
具体的には、週5日以上の勤務または所定労働時間が週30時間以上であれば下表のとおりで、条件を満たさない労働者は週所定労働日数に応じて有給休暇を比例付与します。
もちろん有給取得した技能実習生に対して、給料の減額や不利益を被るような取り扱いは許されません。
5つの条件を満たして給与を支払う
次の5つの条件を満たしましょう。
・毎月1回上支払う
・一定の期日を決めて支払う
・通貨で支払う(同意があれば口座振込も可能)
・直接支払う
・給与の全額を支払う
基本的には日本人と同じようにすれば問題は起きません。
とはいえ、外国人にとって『給与控除』という概念は馴染みが薄いので注意しましょう。
税金、保険料、寮費など労使協定で決めているものは給与から天引きできますが、トラブルを防止するためにも、技能実習生には事前に説明し、理解してもらうことが大切です。
技能実習生にも保険・年金・労働関係法令を適用する
技能実習生にも、保険・年金・労働関係法令を適用し、日本人労働者と同じ待遇にしましょう。
決して不当な差を設けてはいけません。
たとえば次のようなものです。
・雇用保険
・労災保険
・国民健康保険もしくは健康保険
・厚生年金・国民年金
・労働安全衛生法(1年以内に1回、一般健康診断を実施) など
日本人と異なる点として、年金制度における脱退一時金の仕組みを押さえておきましょう。
脱退一時金は技能実習生が日本の公的年金制度から抜けるときに受け取れますが、次の条件を満たす必要があります。
・帰国から2年以内に請求
・加入期間が6ヶ月以上
・障害年金を受け取っていない
また、老齢年金も受け取れますが、脱退一時金を受け取っていると受給資格がなくなりますので、脱退一時金の受け取りは慎重に判断してもらいましょう。
技能実習生の給与計算で気をつけたい3つの注意点
技能実習生の給与計算では、次の3点に気をつけましょう。
・労働時間を適切に管理する
・不透明な管理費で控除しない
・最低賃金だと技能実習生が集まらない可能性がある
労働時間を適切に管理する
必ず始業時間と終業時間を管理しましょう。
労働基準法では労働時間の管理について厳格に運用されているからです。
主な労働時間の管理は
・直接確認する方法
・タイムカードなどで記録する方法
ですが、システム管理ができないなどの理由で採用する自己申告制には注意が必要です。
労働時間の考え方やルールを事前に技能実習生に伝え、乖離が生じない工夫が求められます。企業側の圧力で事実を歪めたり、虚偽の申告を招かないように配慮して、給与の不払いを避けましょう。
不透明な管理費で控除しない
技能実習生が日本の給与体系に不慣れな点につけ込んで、適当な名目で給与から費用を天引きしてはいけません。
実際に悪質なケースとして厚生労働省も警鐘を鳴らしています。
たとえば、次のような費用です。
・監理団体への費用(入会金、年会費)
・渡航費用
・書類作成費用
・申請費用
・保険料
・講習費用
・講習手当
それぞれ数万円〜15万円程度が必要になりますが、これらはもともと技能実習生を受け入れる企業側が負担する費用です。
不透明な「管理費」などの項目で誤魔化し、技能実習生の給与から不当に控除してはいけません。
最低賃金だと技能実習生が集まらない可能性がある
最低賃金だと技能実習生が集まらないことを念頭におきましょう。
なぜなら、技能実習生の出身国、職種、資格・スキル次第では、給与水準を上げないと人が集まらないからです。
たとえば最低賃金で比べると、東京都は1,072円である一方で群馬県は895円です。
ひと月30日で週休2日の場合、仮に3年間働けば
・東京都:1,072円×8時間×月22日×12ヶ月×3年=6,792,192円
・群馬県:895円×8時間×月22日×12ヶ月×3年=5,670,720円
→6,792,192円−5,670,720円=1,121,472円
約112万円の所得差につながり、最低賃金の差は大きいといえます。同時に求人が出ていた場合、東京都を選ぶ技能実習生は多くなるわけです。
他にも、たとえば中国のように給与水準が上昇傾向にある国の技能実習生にとっても同じことが言えますので、集める人材に応じた賃金設定を考えましょう。
技能実習生と給与面でのトラブルを避けるコツ
技能実習生への深い理解が良好な関係をつくり、給与や待遇面でのトラブルの回避にもつながります。
国が違えば文化や言語が異なるのと同じく、給与に対する考え方や税金などのルールに対する理解ももちろん異なるからです。
技能実習生への給与でつまずかないためのポイントを順にお伝えします。
租税条約について理解を深める
日本と租税条約を結んでいる国の技能実習生は所得税・住民税が免除されることがあります。
たとえば、中国人の給与は税引きされない一方で、ベトナム人の給与は税引きされるなど。
「同じ仕事をしているのに、どうして自分は給料が低いの?」と技能実習生同士でのトラブルになり関係が悪化し、働くモチベーションが低下するケースもあります。
企業と技能実習生、そして技能実習生同士の理解を深める配慮をし、きちんと説明して事前に対策しておきましょう。
技能実習生について理解を深める
実際に多くの技能実習生は学び、働きながら母国へ仕送りをしています。
母国にいる家族の少しでも豊かな生活と、将来の貴重な蓄財する機会として日本で働くことを選んでいるのです。
少しでも技能実習生に寄り添い、「外国人は安い給料で雇える」という誤った考え方は捨てましょう。
まとめ
今回は技能実習生の給与計算にまつわるポイントや注意点について解説しました。
本記事をまとめると、
・「同一労働同一賃金」を守り、最低賃金を上回る給与を計算しよう
・労働時間を適切に管理して年次有給休暇をきちんと与えよう
・割増賃金は必ず支給し、ルールに沿った適切な給与支払いしよう
・各種法令などは日本人と同じく適用されるので、不当な扱いは決して許されない
・最低賃金だと技能実習生が集まらない可能性がある
自治体によっては外国人雇用を応援する目的で、補助金や助成金の制度がありますのでうまく活用しましょう。
「外国人労働者を安い給与で雇える制度」という考えは時代遅れ。
厚生労働省も目を光らせている重要な課題でもありますので、技能実習生の給与計算は適切に行いましょう。
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監修者
税理士 篠塚啓三
1975年生まれ 埼玉県所沢市出身
早稲田大学商学部卒業
関東信越税理士会、所沢税理士会に所属大学卒業後、一般企業を経て
平成15年4月 シン中央会計 入社
平成18年12月 税理士登録 登録番号106985
平成29年11年 税理士法人シン中央会計 代表に就任主に創業間もないスタートアップの顧客向けに、クラウド会計の導入やバックオフィスの合理化、経営数値の見える化や事業計画作成、金融機関からの資金調達など、幅広い支援を行っている。
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