【5分でわかる】法人向けの生命保険・損害保険の種類と基礎知識

2023.08.23

法人向けの保険は種類が多すぎる!どれに加入すればいいかわからない
節税する方法や、加入する際の注意点は?
 
こんな悩みにお答えします。
 
法人向けの保険を検討するも、会社の事業に手いっぱいで保険にまで考えが至らない経営者も多いのではないでしょうか。
 
経営をする上で、万が一が起きた際の備えは大切です。
 
とはいえ、営業されるがままに保険に加入するのは要注意です。
 
結論、法改正により法人保険は以前ほど節税しにくくなったからこそ、保険の種類や特徴を把握して会社の目的に合った保険を選びましょう。
 
本記事では、
法人向けの代表的な7つの生命保険
法人向け保険の賢い使い方と保障額の決め方
損金算入のルール変更による節税しにくくなった理由
損害保険を構成する4つの視点
 
これらを解説しますので、本記事を読めば保険選びの選球眼が身につきます。
ぜひ最後までご覧ください。
 
 

法人向けの生命保険の種類【大きく分けて7種類】

生命保険は『ヒト』の生死にまつわるリスクに備える保険です。
 
必要なお金が大きくなるほど、不測の事態が起きたときに資金がショートしたり、倒産に追い込まれるケースも珍しくありません。
 
以下では代表的な法人向け保険を7つご紹介します
 

①逓増定期保険(ていぞうていきほけん)

保険期間の経過にともなって保証額(保険金)が徐々に増えるのが特徴で、被保険者の死亡や高度障害に応じて保険金が支払われます。
 
一般的に保険期間は前期と後期があり、前期は加入時に決めた保障額のままで、後期は保険会社が定める一定の割合で保障額が増えます。
 
【メリット】
徐々に保障が大きくなるので、会社の成長に合わせた保障設計ができる
解約返戻金のピークが早いので、近い将来の役員退職金の財源や会社経営のリスクに備えられる
 
【注意点】
保険料が高い
加入後すぐに解約すると大きく損をする
 

生命保険に加入するには告知や審査が必要です。会社が成長してさらに大きな保障が必要になっても、その時の健康状態によっては加入できないことも。逓増定期保険は徐々に保障額が増えていくので、そのような将来的なリスクに備えられる側面もあります。
 

②長期平準定期保険

保障額や保険料は期間満了まで一定なのが特徴です。
 
逓増定期保険と同じく経営者の万一には、被保険者の死亡や高度障害に応じた保険金が支払われます。
 
保険会社によっては、
低解約返戻金型
健康状態で保険料の割引
外貨建てのタイプ
 
など、さまざまな種類が取り扱われています。
 
【メリット】
まとまった金額を経営者の万一に備えられるので、借入金の返済や残された家族の生活資金、相続税などの納税資金として備えられる
死亡退職金や弔慰金として活用できる
保険料が一定なので資金計画を立てやすい
 
【注意点】
解約返戻金のピークを迎えるまでに10〜30年かかるので、早期に解約すると大きく損をする
保険期間が満了すると解約返戻金・満期保険金がない
 
 
長期平準定期保険は以前ほど節税効果は得られなくなりましたので、
役員への退職金に充てる
会社の赤字による欠損繰越金と相殺させる
 
など、出口戦略を考えつつ戦略的に加入しましょう。
 

③養老保険

被保険者の死亡や高度障害に応じて保険金が支払われ、保険期間が満了したときに生存していれば満期保険金が支払われるなど、貯蓄性の高さが特徴です。
 
【メリット】
死亡退職金や弔慰金、通常の退職金を支払う原資としても活用できる
一定の条件を満たして福利厚生として加入すれば、保険料の半分を損金算入できる
 
【注意点】
福利厚生で使う場合、社員全員を加入対象とする必要があり、保険料が高くなりがち
 

福利厚生に活かす場合は必ず福利厚生規定を設け、税務調査に備えましょう。
 
また、保険料を支払う際には損金算入できたとしても、満期保険金を受け取る際には課税されますのでご注意ください
 

④がん保険

法人向けの商品では事業保障を重視していますので、個人向けのがん保険より保障内容が充実しているのが特徴です。
 
個人向けでは掛け捨てが多い一方で、法人向けでは解約返戻金終身型のタイプもあります。
ただし、保険料は高くなります。
 

【メリット】
解約返戻金のない終身型のがん保険は退職金代わりに一生涯のがん保障をプレゼントできる
解約返戻金のあるがん保険は役員退職金に使える
 
【注意点】
解約返戻金ありのタイプや終身型の場合は、保険料が高くなる
 

退職金代わりに一生涯のがん保障をプレゼントできる理由は、解約返戻金がないタイプだと資産価値がないもとして扱われますので、退職者に契約者を変更しても経済的な負担が発生しないからです。(※保険内容によっては課税の可能性も御座いますので、具体的には税理士へご確認ください)
 

⑤医療保険

個人向けの商品と内容は変わりなく、病気やケガでの入院・通院にかかる費用を保障します。
 
【メリット】【注意点】はがん保険と同様で、節税しながら従業員の福利厚生の準備ができます。
 
また、解約返戻金のあるタイプの商品は役員退職金として活用すれば、現金支給を減らすことができ、会社に資金を残せるメリットがあります。
 

⑥生活障害保障定期保険

死亡や高度障害だけではなく、生活に障害をきたす場合にも保険金が支払われますので、ケガや病気で働けなくなった時への備えられます。
 
【メリット】
要介護状態・認知症・三大疾病(がん・脳卒中・心筋梗塞)など、幅広くリスクに備えられる
 
【注意点】
リスクをカバーする範囲が広い分、保険料が高くなりがち
 

⑦収入保障保険

死亡や高度障害になったときに保険金を一時金もしくは年金形式で受け取れます。
 
保険会社によっては就労不能になったときにも保障を受けられる商品もあります。

【メリット】
年金形式で保険金を受け取れるので、経営者に万一のことがあっても月々の返済などに充てるなど、借入金対策として活用できる
 
【注意点】
加入当初の保障額が大きく、保険期間の経過とともに保障額が減少する
保険料が安い一方で、解約返戻金・満期保険金はないのが一般的
 
 

法人向け保険は以前ほど節税できない

2019年(令和元年)6月の法改正にて、保険料の損金算入についてのルールが変更され、以前ほど損金算入できなくなりました。
 
そもそも法人保険の節税効果は一時的なものであり、実は課税の先送りをしているに過ぎません。だからこそ常に出口戦略まで考える必要があるのです。
 
たとえ保険料の全額を損金算入できても、解約返戻金は益金となり課税対象になります。
 
節税はあくまで二の次。保障を重視したり、会社の目的と照らし合わせたりして加入しましょう。
 
では、変更後のルールについて解説します
 

解約返戻率に応じて資産計上する必要がある

解約返戻金が多いなど、資産として価値がある保険は資産計上する必要があります。
 
【対象となる保険】
定期保険(逓増定期保険、長期平準定期保険 など)
第三保険分野(医療保険、がん保険 など)
 

【変更後のルール】
最高解約返戻率50%以下
 →全額損金算入
 
最高解約返戻率50%超~70%以下
 →60%が損金算入
 
最高解約返戻率70%超~85%以下
 →40%が損金算入
 
最高解約返戻率85%超 
 →当初10年間:支払保険料×最高解約返礼率×0.9
 →11年目以降:支払保険料×最高解約返礼率×0.7
  
 (具体例)
  ・最高解約返戻率86%の損金割合は、当初10年間は22.6%、11年目以降は40%
  ・最高解約返戻率95%の損金割合は、当初10年間は14.5%、11年目以降は34%
  ・最高解約返戻率100%の損金割合は、当初10年間は10%、11年目以降は30%
   

上記のように損金算入できない保険料はすべて資産へ計上します。
そして加入から一定期間経過後に、残りの保険期間で均等に分けて損金計上しながら取り崩していきます。
 
ただし、被保険者ごとの保険料が30万円以下の場合、下記の条件を満たせば保険料を全額損金にできます。
①最高解約返戻率が70%以下の法人向け定期保険
②終身型の第三分野保険のうち、保険料が短期払込のもの
 
①と②のそれぞれで30万円以下なら、1人あたり合計60万円まで保険料を全額損金にできる枠があるのと同じですので、必要に応じて有効活用しましょう。
 
参考:国税庁HP『第3節 保険料等』
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm/
 
 

法人向けの生命保険は課税後の受取金額を逆算すべし

課税された後に受け取れる保障額を逆算して保険に入りましょう。
 
法人税が約33%とすれば、受け取る保険金の約67%が手元に残る計算になるからです。
 
たとえば、会社に1億円の借入金があり経営者が死亡した場合、小さい会社ほど借金の返済義務は家族に及び、残された家族が自己破産するケースも。
 

1億円の返済義務が残るなら、33%課税されても手元には1億円が残るように1.5億円の保障に入りましょう。
 
大切なのは逆算して保障額を決めることです。
 
 

法人向けの損害保険の種類【4つの視点でもしもに備える】

損害保険とは『モノ』の所有にまつわるリスクに備える保険です。
 
法人向けの保険には会社の活動にともなって発生するリスクへ対応する商品が数多くあります。
 
下記の4つの視点を参考に、会社の事業内容や抱えるリスクを十分に予測・把握して加入しましょう。
 

①損害賠償に対応する保険

相手方への賠償責任リスクをカバーする保険です。
 
事業内容によって商品は多岐に渡りますので、一例を列挙します。
 
・自動車保険
・PL保険
・施設賠償責任保険
・役員賠償責任保険
・請負業者賠償責任保険 
・生産物賠償責任保険
・使用者賠償責任保険
・テレワーク保険
・サイバー保険
・セキュリティ保険
・IT賠償責任保険
・個人情報漏洩保険
・建設業総合保険

 

たとえば身近な自動車保険のように、事故により死傷させた相手への損害賠償義務に備えることができます。
 
業種や業態を踏まえ、必要に応じて賠償責任リスクに備えましょう。
 

②企業財産に対応する保険

会社が保有する建物や設備などの資産を守るための保険です。
 
下記のような商品があります。
・火災保険
・工事保険
・機械保険
・企業財産包括保険
・動産総合保険

 
失った資産を回復させるのは多額の資金が必要になりますので、しっかりリスクに対処しましょう。
 

③事業運営に対応する保険

事業をしているとさまざまなリスクにさらされます。
 
そんな時に頼りになるのが下記のような保険です。
・取引信用保険
・船舶・貨物・運送の保険

 
上記は一例ですが、取引信用保険は取引先の倒産に伴う自社の貸し倒れリスクに備えられ、船舶の保険では座礁・火災・衝突など船を使う仕事ならではの多様なリスクに備えられます。
 
事業内容に適したリスク対策を行いましょう。
 

④従業員が抱えるリスク対応する保険

『政府労災保険』への上乗せ保障など、リスクに備えつつ従業員への待遇を充実できます。
 
たとえば下記のような保険です。
・労働災害総合保険
・業務災害総合保険

 
従業員に対する使用者が被る賠償責任のリスクをしっかりカバーしつつ、従業員にとっても安心して働ける環境づくりができます。
 

事業活動全般に対応する保険もある

「細かすぎて分けられない」
「多過ぎてどれがいいか迷う」
 
そのようなときはオールリスク型の保険を検討しましょう。
 
「事業活動包括保険」などの名称で販売されている商品は、建物・設備などから休業による利益減少まで、事業活動全般をカバーできます。
  
 

まとめ

今回は法人向けの保険について、生命保険・損害保険の種類について解説しました。
 
本記事をおさらいすると、
生命保険は特徴の異なる7種類があり、いずれも加入目的を明確にすべき
法改正により損金算入のルール変更があり、節税対策は以前ほど期待できない
生命保険における保険金や解約返戻金は、課税後の受取額をシミュレーションした方がいい
損害保険は多種多様なので、事業内容や会社の状態に合わせて加入する
 
保険の知識を最低限備えておかないと、ムダな出費や保険会社の養分になりかねません。
保険選びは複数の専門家に相談したり、経営者仲間の意見を取り入れたりするのも効果的でしょう。
 
これらを踏まえて、会社のもしものときにしっかりと備えておきましょう。
 
 
 
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監修者

税理士 篠塚啓三
税理士 篠塚啓三
1975年生まれ 埼玉県所沢市出身
早稲田大学商学部卒業
関東信越税理士会、所沢税理士会に所属大学卒業後、一般企業を経て
平成15年4月 シン中央会計 入社
平成18年12月 税理士登録 登録番号106985
平成29年11年 税理士法人シン中央会計 代表に就任主に創業間もないスタートアップの顧客向けに、クラウド会計の導入やバックオフィスの合理化、経営数値の見える化や事業計画作成、金融機関からの資金調達など、幅広い支援を行っている。

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