従業員と外注の違いを解説【税務調査で否認されないために】
2023.07.04
・従業員と外注の違いはどうやって判断するの?
・従業員と外注で税務上の違いはなに?
こんな悩みにお答えします。
会社の経営にとって労働力の確保は永遠のテーマですよね。
従業員を雇う方がいいのか?それとも、個人事業主などを外注した方がいいのか?
世間では「外注化した方が会社にとってお得だよ」という声もありますが、きちんと従業員と外注の
違いを把握していないと、税務調査で否認され思わぬ損失につながりかねません。
本記事では、
・従業員と外注の違いを判断する5つのポイント
・仕事を外注する方が会社にとって有利な理由
・外注費の給与認定がもたらす多くのペナルティ
をお伝えします。
従業員と外注の違いをきちんと判断できれば、想定外の事態も防げます。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
従業員と外注の違いを判断する方法
従業員と外注の違いは実態で判断する必要があります。
言葉の定義や契約形態など、形式的に判断するだけでは不十分です。
税務署は従業員と外注の違いを実態に基づいて判断するからです。
不十分な理解で会社経営を続けてしまうと、将来的に納税や福利厚生などに対する会社の支出額を
大きく左右しかねません。
まずは定義の違いを押さえましょう。
従業員と外注は契約形態が違う
会社側から見ると、従業員へは給与を、外注には外注費を支払います。
いずれも役務の提供対価に変わりはありません。
契約形態が大きく異なり、給与は雇用契約、外注費は請負契約などに基づきます。
雇用契約とは
会社などの雇い主と、その会社で働く従業員との間で交わす契約です。
雇用契約の目的は労務の提供です。雇い主は労務の提供を受ける代わりに、その対価として
従業員に給与を支払います。受け取る側では給与所得として所得税を計算します。
【雇用契約の特徴】
・労働基準法が適用される
・最低賃金が設定される
・雇用保険がある
会社は勤務時間や勤務場所、休暇などの労働条件を決めます。
請負契約・業務委託契約とは
会社などの委託者と、個人事業主などの請負業者との間で交わす契約です。
業務を代行した結果として請負業者に報酬を支払います。
会社は外注費として支払い、受け取る側では事業所得(雑所得)として所得税を計算します。
【請負契約・業務委託契約の目的の違い】
請負契約の目的は一つの仕事を完成させること、業務委託契約の目的は特定の仕事を処理
することです。
【請負契約・業務委託契約の特徴】
・労働基準法が適用されない
・最低賃金が設定されないので、話し合いのうえ自由に報酬を決められる
・雇用保険がない
・有給休暇を与えなくてよい
・時間外労働でも残業代を支払わなくてよい
・雇用契約ではないので、いつでも契約解除ができる
請負契約などの外注は、労務の提供そのものが目的にはなりません。
極端な話、会社員であれば時間どおりに出社し、それなりに仕事をすれば給料がもらえても、
外注ではそうはいきません。
従業員と外注の違いを見分ける5つの判断基準
従業員と外注では税務上の扱いなどが異なりますので、形式的な判断だけでは不十分です。
従業員か外注かの違い一つで納税額が大きく変わります。
実態が疑わしい場合は税務調査で否認されたり、反面調査されたりする可能性も。
反面調査とは外注先へ税務官が出向き、あれこれ調べられるような税務調査を補完する目的で
行われます。
想定外の事態を避けるためにも、事前に次の5つの判断基準を押さえておきましょう。
1.代替性があるか
2.時間・場所の拘束があるか
3.管理者の指示や命令に従っているか
4.報酬が支払われる基準はどこか
5.業務関連物品の提供はあるか
これらを参考に事実関係を説明できるようにしましょう。
1.代替性があるか
『本人が仕事をするのか、他人が代わってしてもいいのか』がポイントです。
代替性がない場合、従業員としての要素が強くなります。
外注などの請負業者が休んだ際に他者が対応できない場合、従業員と判断される可能性が高まります。
2.時間・場所の拘束があるか
『作業場所や勤務時間などが自由か』がポイントです。
外注と言えども他の従業員と同じ条件で働けば、従業員とみなされる可能性が高まります。
3.管理者の指示や命令に従っているか
『仕事の依頼を断れるか(断った事実があるか)』『作業内容について指揮監督を受けているか』がポイントです。
会社など管理者の指揮下にて業務に従事するのは、従業員とみなされる可能性が高まります。
4.報酬が支払われる基準はどこか
『成果物を納品しない限り、報酬は支払われないか』がポイントです。
・納品しなくても部分的に報酬が支払われる
・欠勤や遅刻に対して報酬を控除している
・残業手当を支給している
・日給・時給などが決められている
これらに当てはまると、従業員としてみなされる可能性が高まります。
5.業務関連物品の提供はあるか
『仕事に必要な場所や機械、器具等が誰の所有物なのか』がポイントです。
・材料や道具などを会社から支給されている
・仕事に必要な経費を負担していない
・いつも会社の車を使って現場へ向かう
従業員と同じ待遇であればあるほど、従業員としてみなされる可能性が高まります。
従業員への給与と外注費の税務上の違い
従業員を雇うより外注化した方が会社的には有利です。
なぜなら外注費の方が会社にとって負担が少なく、支出を抑えられるからです。
次の2つの視点で、従業員と外注の違いを深掘りします。
・社会保険料など
・消費税
社会保険料など
会社にとって外注は社会保険や雇用保険、労災保険の被保険者になりません。
従業員と大きく異なるのは、会社が保険料を負担しなくて良い点です。
従業員か外注かの違い一つで、会社の負担額は大きく異なります。
たとえば従業員を雇う場合、
・社会保険料は労使折半
・雇用保険は雇用保険料率に基づいて労使で負担(会社>従業員)
・労災保険料は会社がすべて負担
・福利厚生などあれば、通勤費などは会社で負担
外注の場合は、上記の支払いがすべて不要。
受け取る側で考えると、外注費より給与をもらう方が有利だと言えます。
消費税
会社にとって外注費の方が消費税の納付税額が少なくなります。
従業員への給与は不課税取引ですが、外注費は課税仕入取引となり、消費税の計算で差し引ける
金額が異なるからです。
【消費税の計算式】
納税額=「課税売上高にかかる消費税額」−「課税仕入にかかる消費税額」
※『課税売上高にかかる消費税額』とは、売上とともに入ってくる消費税
→会社が本来納めるべき消費税を一旦預かっているイメージ
※『課税仕入にかかる消費税額』とは、外注費などの課税仕入取引として支払った消費税
→買い物をした時に消費税がかかるのと同じイメージ
上記のように本来、会社は『預かった消費税』から『支払った消費税』を差し引いて納税します。
従業員への給与は不課税取引ですので、『預かった消費税』として差し引く消費税がありません。
課税仕入取引となる外注費だと、『預かった消費税』から『支払った消費税』を差し引けます。
結果的には納税額が少なくなるというわけですね。
外注のつもりが従業員と判断されるリスク【深刻です】
「うちの社員も請負契約や業務委託契約にして、節税しよう!」
「会社に少しでもお金を残そう!」
という動きが出るのも不思議ではないですよね。
会社にとって都合が良くても、実態が伴っていないと税務調査では否認されます。
それだけではなく手痛いペナルティを受けかねませんので、注意しましょう。
外注のつもりが従業員と判断されないためにも、
1.代替性があるか
2.時間・場所の拘束があるか
3.管理者の指示や命令に従っているか
4.報酬が支払われる基準はどこか
5.業務関連物品の提供はあるか
上記の5つの判断基準を押さえておきましょう。
万が一、外注費の給与認定がされれば、どんなペナルティがあるのでしょうか。
外注費の給与認定にともなうペナルティ
会社にとって余計な出費が発生します。
外注費が給与認定されると、追徴課税しなければならないからです。
具体的には、
・法人消費税の請負・業務委託についての仕入全額控除がすべて否認される
・外注費として源泉徴収していなかったことから、源泉徴収漏れの指摘を受ける
・社会保険などを支払っていないことを指摘される
・延滞課税がかかる
(給与認定にともない源泉所得税や消費税の追加納付が必要になるが、その時点で法定納期限を超過していることになるため)
・過少申告加算税がかかる
(本来納税すべき金額を下回っているため)
このように会社にとって金銭的なリスクが非常に高いです。
さらに、外注ではなく従業員と判断された者の確定申告も無効になります。
意に反した結果にならないように、従業員と外注の違いをはっきりさせておきましょう。
給与認定されるケース
外注費の給与認定といっても、さまざまなケースが考えられます。
よく起こりがちなのは、一人親方の場合など。
たとえば、事業所得者として外注費を受け取り確定申告をしていても、
・仕事は得意先のみ
・得意先に指定された場所で働く
・得意先の従業員と労働時間・場所が同じ
・外注費としての報酬は、得意先の従業員の給与と支払日が同じ
・現場では得意先が所有する道具や車両を使う
・時間外手当を受け取っている
このような状況ですと、従業員だと判断されかねません。
外注費ではなく給与認定されると、会社にとっては想定外の事態となりかねませんので気をつけましょう。
まとめ
今回は従業員と外注の違いについて判断するポイントをお伝えしました。
本記事の内容をおさらいすると、
・従業員と外注の違いは、形式的な判断ではなく実態をもとに判断する
・想定外の事態を避けるには5つの判断基準を用いる
・会社にとって支払いが少なくて済むのは外注費
・外注費が給与認定されると追徴課税の対象になる
会社にとって手間や支出を削減できますので、近年は外注化の流れも活発ですが、一辺倒な解釈で従業員と外注の違いを区別しないように注意しましょう。
あくまでも実態に沿ったご判断を。
会社経営にとって最良の選択肢を選ぶきっかけとなれば幸いです。
適切に従業員と外注の違いを判断していきましょう。
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監修者
税理士 篠塚啓三
1975年生まれ 埼玉県所沢市出身
早稲田大学商学部卒業
関東信越税理士会、所沢税理士会に所属大学卒業後、一般企業を経て
平成15年4月 シン中央会計 入社
平成18年12月 税理士登録 登録番号106985
平成29年11年 税理士法人シン中央会計 代表に就任主に創業間もないスタートアップの顧客向けに、クラウド会計の導入やバックオフィスの合理化、経営数値の見える化や事業計画作成、金融機関からの資金調達など、幅広い支援を行っている。
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