使ったお金が全て経費になるわけではない?資産計上と減価償却
2022.01.12
開業した時は店舗や備品、車両など何かと出費も多いかと思います。
実は法人や個人が、事業用に建物や機械、備品などを購入しても、使ったお金がすぐに経費になるわけではありません。
原則的には、「建物」「機械」などの勘定科目で“資産”として計上し、その資産を、減価償却によって少しずつ減額しながら経費にしていきます。
●減価償却の概念
減価償却とは、事業のために購入した固定資産の額を、その耐用年数に応じて
少しずつ費用としていく会計処理のことです。
事業のために固定資産を購入したときは、まずそれが減価償却の対象になる資産かどうかを
判断し、その上で、事業に使い始めた月から減価償却を開始します。
実務上は、決算時にまとめて処理をすることが多いです。
●減価償却は何のために行うのか
減価償却は、事業年度ごとの正しい損益を計算するために行います。
たとえば、事業を開始した第1期目で、給与100万円を支払って、
売上300万円を達成したとしましょう。
ほかの収益や費用が発生していなければ、当期の利益は200万円です。
では、もっと売上をアップさせるために、第2期目に1,000万円の機械を購入し、
さっそく事業に使い始めたとします。
機械のおかげで効率が上がり、第2期の売上は、倍の400万円になりました。
この場合、第2期の利益は、400万円-(給与100万円+機械1,000万円)で、
マイナス700万円になるでしょうか。
答えはNOです。
この機械は、第2期の売上をアップさせるだけではなく、その後、何年、何十年にわたって、
売上アップに貢献してくれます。
このようなとき、1,000万円は「機械」として資産に計上し、第2期、第3期、第4期…と
各事業年度で少しずつ、「減価償却費」として費用化しなければなりません。
このように、機械の購入費を、各期に正しく費用配分することで、正しい損益を
計算できるようになります。
「減価償却費」を計上する際は、同時に、資産計上した「機械」の簿価を
減少させる処理を行います。
減価償却の対象となる資産は、使用することによって、だんだんと劣化し、
価値が減少していきますから、このことを決算書にきちんと反映させるために、
費用を計上する分だけ、資産を減少させるのです。
これが、減価償却という会計処理になります。
●何年で減価償却をするかは「耐用年数」で決まる
では、一体何年かけて減価償却をしていけばよいのでしょうか。
これについては、資産の種類や構造・用途の別によって、
あらかじめ決められた「耐用年数」を使用します。
たとえば、機械では、農業、林業省、食料品製造業、木材・木製品製造業など
業種によって異なる耐用年数が定められています。
耐用年数は、国税庁のWebサイト等で確認することができます。
●減価償却の対象資産
減価償却の対象となる資産は、下記のとおりです。
・建物、建物附属設備
・構築物
・機械及び装置
・船舶、航空機
・車両及び運搬具
・工具、器具及び備品
・鉱業権、漁業権、特許権などの無形固定資産
・牛、馬、豚などの動物や、かんきつ樹、りんご樹、茶樹、オリーブ樹などの植物
このうち、棚卸資産(商品や製品など)、使用可能期間が1年未満である資産、
そして、一定額に満たない少額な資産は、減価償却の対象外となります。
●少額な資産に対する減価償却の例外的な扱い
A:10万円未満の資産を取得して事業に使い始めた場合
税法では、取得価額が10万円に満たない資産であれば、その全額を、
事業に使い始めた事業年度の法人・個人事業の経費にすることを認めています。
これによって、たとえば事務用デスクやキャビネットなど、多くの事務用品が、
減価償却をすることなく、購入時に「消耗品費」などとして処理することが可能となります。
【取得価額の判定】
取得価額とは、資産の購入代価と、その資産を事業に使用するために直接必要な
費用の合計額です。
金額の判定は、取引単位ごとに行います。
たとえば、テーブルとイスが1組で取引きされる場合、1組の取得価額で判定します。
また、税込経理方式を採用している消費税の課税事業者の場合、税込金額で
判定しなければならないことに注意が必要です。
B:10万円以上の資産の場合
取得価額が10万円以上の資産については、原則、減価償却によって経費にします。
ただし、20万円未満の資産は、3年かけて毎年均等額で経費にすることも認められています。
この3分割で償却する資産のことを、一括償却資産といいます。
また、青色申告をする中小企業者(※)が、30万円未満の資産を取得して事業に使用するときは、
全額をその事業年度の損金・必要経費にできるという税法の特例もあります。
この特例によって、中小企業では、ノートパソコンや複合機など10万円を超える資産でも、
減価償却をすることなく「消耗品費」などで処理することが可能となります。
(※)主に、常勤従業員が500人以下の、資本金1億円以下の会社や個人事業主などが該当します。
【一括償却資産(20万円未満)のメリット】
20万円未満の資産であれば、3年で均等償却をすることも、30万円未満の特例によって
全額を償却することも可能です。
わざわざ3分割するよりも、特例で償却できたほうがお得に感じられると思います。
ただし、30万円未満の特例には、
・中小企業者が青色申告をする事業年度でなければ適用できない
・特例を適用する資産の合計が年300万円に達すると、その年度ではそれ以上の適用ができない
といった制限がありますので、こうした場合は、3年で均等償却をするほうが良い場合もあります。
また、一括償却資産として扱うと、償却資産税が非課税になるというメリットがあります。
C:30万円以上の資産の場合
取得価額が30万円以上の資産については、上記で解説したような例外的な扱いが
ありませんので、事業に使用し始めた月から、原則どおり減価償却を行います。
たとえば、車やパソコンなどの購入代価が高いものは、通常の減価償却をすることとなります。
●取得価額と償却方法のまとめ
取得価額 | 償却方法 | |
10万円未満 | ・通常の減価償却 ・全額を一時に償却 |
|
30万円未満 | 20万円未満 | ・通常の減価償却 ・3年均等償却(一括償却資産) ・全額を一時に償却(中小企業者の特例) |
30万円未満 | ・通常の減価償却 ・全額を一時に償却(中小企業者の特例) |
|
30万円以上 | ・通常の減価償却 |
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